@OKUYAMATO NARA
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吉辰商店

吉野杉箸に宿る“おもてなし”の心──
江戸後期より続く老舗「吉辰商店」は、奈良・吉野杉を用いた高級懐石箸を手がけています。輸入品が主流となる中、「木を使うことで森を守る」という信念のもと、製造から販売まで一貫して行い、上質な国産割箸文化を継承。細やかな木目とやさしい香りが生む吉野杉ならではの美しさで、国内外の食卓に“本物”のぬくもりを届けています。

Interview

山を育て環境を守る。林業という尊い仕事の価値が認められる社会を目指す

吉辰商店 代表取締役 吉井 辰弥

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「売るものがなくなる」危機感からの決断

ーー吉辰商店さんの事業について、簡単にご紹介いただけますか。

吉井:江戸後期から祖父の代までは漆器の塗りをしていたのですが、昭和初期になると塗り膳の需要が減り始めました。その頃から「割箸」が世間に出回るようになり、吉野杉・桧箸も需要が高まり、祖父が箸づくりを始めたのが当社の原点です。最初は商店として、近隣の職人が作った製品を仕入れて販売していました。しかし、飲食業界の経費削減などで近年になり竹箸を中心に、中国やベトナム産等の輸入割箸が国内市場の98%近くを占めるようになり、木工事業で栄えた町も時代の変化とともに製造業者が減り、このままでは「売るものがなくなる」と強い危機感を抱いたのです。そこで、自ら製造に乗り出すことを決断しました。販売だけでなく、ものづくりの現場に関わることは大きな転換でしたが、「製造から販売まで一貫した事業所」という、後にこれが当社の大きな財産となりました。

こだわり抜いた吉野杉の懐石箸への特化

ーー吉辰商店さんの割り箸にはどんな特徴がありますか。

吉井:当社は現在、吉野杉を使った懐石箸に特化しています。15年前に事業を大きく方向転換し、低価格の大量生産品ではなく、付加価値の高い割り箸に集中しました。吉野杉は木目が細かく光沢もあり、懐石料理にふさわしい上質さを持っています。細身で手に馴染みやすく、品のある仕上がりは、晴れの日の食卓に欠かせない存在です。

ーー品質はどのように生まれるのでしょうか。

吉井:最も大切なのは材料の吟味です。吉野杉の中でも木目の通り方や色合いを見極め、適した部分だけを選びます。さらに、製材の際に細部まで注意を払い、角の仕上げや厚みの均一さにこだわります。吉野杉の「ほのかな香り」や「やさしい手触り」までもが美しさにつながる。単なる食べるための道具ではなく、料理と人とをつなぐ大切なおもてなしの表れが吉野杉箸だと考えて作っています。

良いお箸で感じる幸せ

ーー「割り箸=使い捨て」というイメージがありますが、そこにどんな価値を見出されていますか。

吉井:良いお箸は、その場の雰囲気を一段と高めます。結婚式やお祝いの席で、手に取った箸が上質なものであれば、それだけで会食の格が上がるのです。あるお客様から「このお箸で食べると幸せな気持ちになる」と言われたことがありました。割り箸なのにそう感じてもらえるのは、私たちにとって大きな励みです。

持ち帰りたくなる割り箸の魅力

ーーお客様から印象に残った言葉はありますか。

吉井:「持って帰って家でも使いたい」と言われたことがあります。割り箸ではありますが、洗って乾かせば繰り返し使える。それだけ気に入っていただけたのだと思うと、ただの消耗品ではなく、暮らしを豊かにする道具だと改めて感じます。

ーーご自身にとって、割り箸はどんな存在ですか。

吉井:私はホームパーティーなどご家庭でもぜひ使っていただきたいと思っています。家庭の食卓や集まりで「ホンモノ」を使う、そして知る体験が消費者の皆さんにも広がれば、飲食店も「良いものを提供したい」というモチベーションにつながって行くと思っています。当社は海外にも積極的に出展してきました。ニューヨークの展示会「New York Now」には4回参加し、ニューヨークやカリフォルニアのセレクトショップ、さらには高級レストラン向けの販路も開けました。海外での評価が国内での採用につながるケースも少なくありません。

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山を守る手入れと森との共生

ーー割り箸の材料となる木材はどのように選ばれていますか。

吉井:吉野杉だけを使っています。酒樽も100%吉野杉でつくられるように、香りや木目の美しさに優れており、箸材としても理想的です。

ーー山や森との関わりで大切にしていることは。

吉井:山をきちんと管理していれば、大雨が降っても森ごと崩れることはありません。しかし需要が減ると枝打ちや間伐がされず、木が密集して根が張れずに山が弱ってしまいます。吉野杉は桶や樽材として枝打ちをしながら真っ直ぐ育ててきた歴史があり、その知恵と技術を活かすことが持続可能な森づくりにつながります。

ーー環境への取り組みについてはいかがですか。

吉井:「木を使う生活」をもっと広めたいと思っています。現代の住宅は柱が見えない設計が多いですが、本来は木とともに暮らす文化がありました。暮らしの中で木の温もりを感じてもらえるよう、箸を通じて提案していきたいです。

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子どもたちに伝える、お箸づくりと山の話

ーー奥大和という地域で続けてこられた理由は何でしょう。

吉井:この地に根を下ろしてきた理由の一つは、地域の人とのつながりです。近隣の子どもたちが工場見学に来て、お箸の作り方や山の話を直接伝えられるのは大きな意味があります。吉野杉という地の利があることで良材を確保しやすく、関係者とのネットワークも築きやすい。地域の一員として、共に支え合いながらものづくりを続けています。

国産材活用と海外への発信

ーーこれからの展望について教えてください。

吉井:今後も国産材を積極的に活用しながら、海外にも日本の箸文化を伝えていきたいと思っています。単なる消耗品ではなく、「ホンモノ」として広く認知されることが目標です。高価格帯の商品だからこそ販路の開拓は容易ではありませんが、挑戦し続ける価値があります。

木を使うことで守られる未来

ーー最後に、次世代や若い世代に伝えたいことは。

吉井:まずは実際に使ってみてほしいですね。木を使うことで森や山が守られる。海外も国内もまだ弊社の供給市場は小さいですが、その存在感を少しずつ大きくしていきたいと思います。吉野杉箸を通して、自然と共に生きる文化を次世代に手渡していくことが、私たちの使命だと考えています。

Products

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Company Info.

Name吉辰商店
Location〒638-0041  奈良県吉野郡下市町下市2764-6
E-mailyositatu@kcn.ne.jp
HPhttp://yoshitatsu.net/