Izuru Mokko
吉野の高品質なスギとヒノキを使用して椅子や木工製品を手掛けている「維鶴木工」。日本らしい椅子を追求する中で誕生したのが、吉野檜で作られた制作キットです。「直して使う」日本文化を大切にし、吉野の人工林業システムを通じて持続可能な資源づくりの伝統を継承しています。維鶴木工は、日本の美しい木材と伝統的な製法を結びつけ、お客様に満足いただける製品を作っています。
Interview
日本らしい椅子とは。探求する過程で生まれた制作キット
株式会社維鶴木工 代表取締役 藤川拓馬
一目惚れした吉野檜で、“直して使う”日本文化を継承したい
ーー藤川さんが作っているものや、作り手としての思いをお聞かせください。
藤川:吉野の木を使った椅子をメインに家具を作っています。吉野檜を使いたいという思いから起業をしたのですが、吉野檜にこだわる理由の一つが、素材そのものがいいということ。そして、吉野林業という歴史が、これからの世界、社会にとって大きな意味を持つと思っているからです。なので家具づくりだけではなく、木材について、そして日本の文化を伝えていけるような活動に取り組んでいます。
ーー吉野檜を使いたいと思ったきっかけを教えてください。
藤川:父親が大工だったのでその背中を見て育ちました。中学生の頃にはもう家具を作ろうと思っていて、地元の大阪で最初に就職したのも木工所です。独立を考えて近隣県の田舎を回っている時に吉野の木材と出会い、その吉野檜が本当にきれいで。その美しさに一目惚れしました。
また、檜は強度の面で家具には向かないと言われてきましたが、吉野檜は強度が優れていたので家具に応用できると感じたんです。その時に、吉野檜で椅子を作りたいという思いが生まれました。
ーー家具の中でもなぜ、椅子を作りたいと思ったのでしょうか。
藤川:単純に椅子が好きですし、家具の中では椅子を作るのが一番難しいんです。だからこそ作っていて楽しいんですよね。ビジネス的な側面としては、日本の木で日本らしい椅子を作っている人がいなかったからです。元々日本の文化には椅子がなかったからなのですが、現在の文化の中で椅子は生活の場に必要な道具になっています。だからこそ日本らしい椅子を体現したいと思いました。
ーー日本らしい椅子って、どんな椅子でしょうか。
藤川:それを考えるにあたり、そもそも日本らしいってなんだろうというところから考えていますが、いまだに答えは見つかっていません。藍染のワークショップをやったりと、日本らしい生活、文化って何だろうと試し、探し続けています。
その中の一つの答えとして作ったのが、吉野檜の椅子制作キットです。日本らしさの一つは、障子を家庭で張り替えてきたように、自分で直し続けて使い続ける文化だと思うんです。そんな風に繰り返し使っていく中で木材自体、道具自体がすごく綺麗に育っていきます。日本の古民家も、できた直後よりも100年200年経った後の黒ずんだ見た目の方が美しいですよね。
椅子を通してそれを体験してもらいたいと思ったのですが、そのためには自分で直せないといけません。そこで、直してもらうために、自分で作ってもらうことにしました。
日本という高温多湿な環境だからこそ、機能的な面でも、日本の環境や風土に合った素材を選びました。実は吉野檜はカビにすごく強いので最適です。そして座面には、ペーパーコードという紙のヒモを採用しました。日本は昔から藁葺き屋根など藁を使う文化がありますが、ペーパーコードは藁と同じように蒸れないので夏は涼しく、冬は木の座面に比べて暖かいんです。
500年続く吉野の人工林業システムは、持続可能な資源づくりの答になる
ーー冒頭、吉野檜の歴史がこれからの社会に大きな意味を持つと言われましたが、詳しくお聞きしたいです。
藤川:吉野の林業は人工林業です。500年もの間、人が植え、育てまた植えて、というサイクルを繰り返してきました。それは持続可能な資源として、これからの時代にとても合っている仕組みだと思います。すでに完成している仕組みなので、世界中で採用されれば木材の活用がもっともっと広がると思いますし、森と人が共生するためのシステムとしても吉野林業が答えになると思っています。
僕たちも商品やワークショップなどを通じて、吉野林業のシステムの有効性を伝えていきますが、お客様も家具を選ぶ時に、ただカッコいいとか安いとかだけではなく、「どんな木を使っているんだろう」と関心を持ち、木材まで見てもらえると嬉しいですね。
その点で、吉野檜の椅子制作キットは、「見た目がオシャレだから」「かわいい」という理由で買ってくれた方が多かったんですが、そういう方たちに「家具って自分で直せるんだ」と気づいてもらえたのは大きいですね。達成感や愛着を持ってもらうために、できる限り時間をかけて大変な思いもしながら作るようにしたのですが、だからこそ気に入って、直して使おうと思ってもらえるのではないかと考えています。そしてさらに、檜や林業にも関心を向けるきっかけになってくれたらいいですね。
ーー今住んでいる奥大和の生活では、物を大切にする、直して使うという文化は感じられますか。
藤川:生々しく残っているというわけではなく、痕跡が残っているといいますか、もうすぐなくなってしまうギリギリのラインだと思っています。古民家を直して住むという人もいるけれど、更地にして新しい家を立てることの方が実際多いですし、木の雨戸もステンレスやアルミのものに変わっています。だからこそ、今のうちに日本らしい生活や古くから伝わる文化を極力集めていきたいと思います。
そして、日本らしい椅子という物を体現するために、これからもいろいろなことをしながら探っていきたいです。同時に、その後継をお客様に見てもらったり、実際に作り上げた椅子を使ってもらう機会などをどんどん増やして、その僕らなりの答えが、社会に少しでも影響を与えるようなもの作りができたらなと思います。