Takanokagu
高野家具は杉皮を用いた家具やアートを作っています。杉皮は立体的で力強く、ゴツゴツした荒々しい質感が魅力です。かつては耐水性が高いため、屋根や塀、外壁に広く利用されていましたが、今ではほとんどが廃棄されています。この貴重な素材の新たな魅力を最大限に引き出した製品を、国内外に広めていきます。
Bornfild
Interview
杉皮を使った家具やアートの可能性を広めたい
高野家具 高野大輔
立体的で力強く、ゴツゴツした荒々しさが杉皮の魅力
ーー杉皮を使った家具が特徴的ですね。
高野:吉野に来てから杉皮を使った家具やアートのようなものを作っています。これまでは誰も杉皮を家具に使っていませんでしたが、僕は杉皮という素材の質感や表情にものすごく魅力を感じました。杉皮は凹凸が大きいので立体的で、力強くゴツゴツしていて荒々しさがあります。木によっても個性が大きいので、同じ皮でもそれぞれ違うところが面白いですね。
ーー最初に杉皮を知ったきっかけを教えてください。
高野:自宅からほど近い銘木屋さんの事務所に行ったところ、天井に杉皮を使っていたんです。その時に杉皮の魅力を知り、杉皮を使った活動を始めました。杉皮自体は、昔はもう少しポピュラーな素材でした。耐水性が強いので屋根や塀、外壁に使われていましたが、だんだん使われなくなり、今では一部の寺社仏閣や古民家の改修ぐらいにしか使われていません。というのも、杉皮は真夏の一番暑い時期にしか取ることができないうえに、吉野の山は傾斜がものすごく急なので手間がかかるんです。需要が少ないこともあり、今ほとんどの杉皮は捨てられていると思います。
ーー真夏にしか取らないのはなぜでしょうか。
高野:木は基本的に寒い時期に伐りますが、杉皮は木が水をたくさん吸っている真夏の方が皮がとても剥きやすくなるんです。木を伐り倒してすぐに切れ目を入れ、皮と幹の間にへらのようなものを入れていくと桂むきのようにつるんとむけます。その後、取った皮を山の中で積み重ねてシートで囲い、発酵させて虫を殺します。発酵させるためにも、暑い季節である必要があるんです。
ーー杉皮を使った家具やアート作品は、どんな場所やシチュエーションが似合いますか?
高野:アートボードは迫力がメインの作品です。1.5㍍や2㍍といった特大サイズのものもありますが、住宅には大きすぎるので、商業施設やオフィスなどのロビーなど広い壁があるところに飾ってもらえたらいいなと考えています。奈良県の支援事業としてシンガポールで販売させてもらった時には、購入した方がアートボードをマンションのエントランスに飾って下さいました。面白かったのは、僕は杉が立っている時のように、皮目が縦になるように作ったんですが、お客さまはそれを横に倒して飾って下さっていたんです。僕にとってはそれがすごく面白い発見でしたね。また、皮をつけることで丸太に見えるようなゴミ箱も作っています。アートボードは杉皮を平らにして使っていますが、丸く使うことで、より杉皮らしい作品も作りたいと思いました。
移住して知った杉や檜の魅力と、地域の人たちの林業への思い
ーー元々は家具を作られていたのではなく、デザインをされていたと聞きました。
高野:大学を出たあとはグラフィックデザインをやっていました。グラフィックという仕事に満足をしていたら転職はしていなかったと思いますが、一生やるほどではないなという思いがありました。その頃子どもが生まれて広めの家に引っ越したので、家具でもちょっと作ってみようかなと、ホームセンターで木を買ってきて作り始めたのが最初です。毎週それをやってたら「これはいいかもしれない」と思ってきたんです。グラフィックは基本的に平面の世界なので、立体的な家具を完成させていくのが面白かったですね。そしてグラフィックの時は大手の広告の仕事をしていたので、いろいろな職種の人が関わって作り上げていましたが、家具は最初から最後まで一人で全部完成形まで作って届けられるところも魅力でした。
ーー吉野に移住されたきっかけを教えてください。
高野:今住んでいる家は祖父母が住んでいた家なんです。家具を作るなら田舎で独立してやりたいと思っていたので、空き家になっていた家に移住してくることにしました。当時は杉皮のことをもちろん知らなかったですし、杉や檜が使いたくてここに来たわけでもありませんでした。家具を作る環境が整えばどこでも良かった、というのが正直なところです。もっと言うと、家具を作るうえで杉や檜は和風になってしまうのであまりカッコ良くないというイメージを抱いていました。でもここで暮らしていると、周りの人たちが林業を残して行こう、という思いで頑張っているのを見るわけです。その想いに感化され、徐々に杉や檜を使うようになっていきました。最初に杉皮を使って作った家具はサイドボードです。杉皮は結構色が濃いので、コントラストをつけるために、白い檜で本体を作り、扉に黒っぽい杉皮を使いました。今では和風っぽいという見方もなくなりました。
ーーここでの暮らしはいかがですか?
高野:妻も含めて自然の多い環境で子育てをしたかったことと、お店が近くになくても今はネットでなんでも買えることもあり、スムーズに移住できました。移住とは言っても、僕の場合は「孫が帰ってきた」と言う受け止められ方なので、溶け込みやすかった面もあるかもしれないですね。
ーー最後に、これからやりたいことやチャレンジしたいことについてお聞かせください。
高野:杉皮を使った家具やアートの可能性をもっともっと広げていきたいと思っています。そもそも、杉皮の存在自体をほとんど誰も知らないと思うので、国内はもちろんですが、海外の方にも「こんなものがあるんだ」と言うのをもっと見てもらいたいと思っています。このままでは絶滅とは言わないまでも、杉皮を取る人がいなくなり、欲しくても手に入らない時がくるかもしれません。だからこそ、ちょっとでも存在を広めれたらいいなと考えています。